エンジン音だけで車種をいい当てるT君の話
最近の車は静かだ。
エンジンがかかって発進する時も、昔の宇宙系の洋画のUFOがスッと垂直に飛び立つ時みたいな、一瞬だけすごいメカニックな音が控えめにするだけ。
住宅密集地で、夜遅くや早朝に車を出入りさせても全く気にならない。
自分ちの車のエンジン音で周囲に気を遣わずに済むのでその点とても助かる。
だけど、歩行者側からすると車が自分のすぐそばまで近づいてきてても、こちらの視界に入るまで気付かないままでいる時があるのでけっこう危なかったりする。
昔の車なら遠くからでもこちらに走って来てるのがわかるぐらいの音がしてた。そういう意味では静か過ぎる車には危険な面もある。
そんな事を考えていたら、中学3年生の時によく一緒に遊んだT君の事を思い出した。
T君は車やバイクが大好きで、遠くから走ってくるエンジン音が聴こえると「ミラ・ターボや」とか「スカイラインや」とか「400(2輪)や」とか、いつも言っていた。
T君同様に車好きな先輩が一緒の時は「車種のあてっこ」みたいになってていつもT君が勝っていた。私の記憶ではT君のそれは百発百中だったと思う。
そんなT君は学校では全然目立たない子だったけど勉強の出来なさが群を抜いててクラスの成績の1と2を常に受け持っているという影響力(?)ある人物だった。
ある日、数学の授業の「確率」の問題で先生が「これわかるヤツおるか?」と生徒たちに投げかけた時に、T君ひとりだけが手を挙げたことがあった。
T君が授業で挙手したのは後にも先にもこれだけらしい。
「らしい」というのは、この話はその時に同じクラスだった別の子から聞いた話で私は同じクラスではなかったから。
「おうT。おまえわかるんか」と先生は言ってT君をあてた。
クラスにいた全員が「先生の質問の意図を勘違いして手を挙げてるんじゃないか」というふうな高を括った目でT君に注目していたけど、T君は意に介さず正しい答えを述べた。
先生は「おお!」と感嘆の声を上げて嬉しがり、「じゃあ、これわかるか?」とさらに別の質問を投げかけたがそれにもT君は難なくスラスラと正しい答えを述べたのだった。
「なんでおまえ、ほかの問題ぜんぜん出来ひんのにコレだけは解るねん?」と先生が聞きT君が言うには…
小さい時から「トラック野郎」の菅原文太の大ファンで、博打のシーンで出てくる確率のモンダイに興味を持ち、それを理解するために何度も何度も繰り返し観たのだ
…との事だった。
クラス中が大爆笑となったのだけど、この時のことはきっと各自の中学生時代の「忘れられない思い出」のひとつとなっていることだろうと、このエピソードを私に語ってくれたその子は言っていた。
T君は、高校受験も就職先も決めず中学卒業後はアルバイトをしながら18歳になるのを待ち、車の運転免許をとってその後大型免許もとって「トラック運転手」になった。
20代の始め頃、当時の友人たちとの集まりにT君も来ていてその時に彼のトラックで送ってもらったのだが、乗っていてすごく安心できる上手い運転だった。
ただただ純粋に「車が好き」なT君のような人は、最近ニュースで観るような「あおり」や「危険運転」なぞ絶対にしない。
T君でなくとも、車や車の運転に関するコトを理解している人間なら「なにが危険か」を知っている。
公道でいらん事をするドライバーは、年齢に関係なく本当の本当に色んな面でどうしようもないハンパ者。できる事ならそんな人間とは一生関わらずにいたい。
アレ?
もしかしてエンジン音が静かなのはハイブリッド車だけ(・・?。
こんなふと浮かんだ疑問もきっとT君なら即答で答えるんやろうなぁ。(*´ω`*)