悲しいけれどお前に夢中
トランス状態のその先にあったもの
西城秀樹の私の思い出を語りたい。
小学校の4年か5年生くらいの頃の話。
私は大阪の下町で、2階建の借家に住んでいた。
たまたま家に誰もいなかったある夏の日の事。
私はひとり、ラジカセを持って2階へ行った。
カセットテープには、テレビの歌番組から録音した西城秀樹の「ギャランドゥ」が
入っている。
私は音量を「中」よりやや上げて、再生ボタンを押した。
♪悲しいけれど お前に夢中 ギャランドゥ ギャランドゥゥ~
♪その熟れた肌 潤んだ瞳 ギャランドゥ ギャランドゥゥ~
私は踊った。心のままに。まるで何かから解放されたように。
♪髪を振り乱したままで 踊る ギャランドゥゥ~ Ah~
昭和の小学生の割には、上手くリズムに乗れてたと思う。
途中でターンを入れてみたり、頭を横にウェーブさせてみたり。
気分が最高潮にノってくるのに、そう時間はかからなかった。
1番から2番の間のピアノとエレキギターの長い間奏。
私はすでに「トランス状態」に入っていた。
赴くままに激しく踊り、ふと何故だか開け放した窓の外へ目が行った。
すると、物干し場で洗濯物を取り込みながら怪訝な顔をして私を見ている隣りの家のオバちゃんと目が合ってしまった。
・・・・が、そのような時、人はすぐに動きを止めることなんてできない。
私はだんだんと緩やかに、自分の身体の動きにブレーキをかけていき、ラジカセの「停止」ボタンを押した。
そしてアキレス腱を伸ばしたり、準備体操みたいな動きをしつつ、徐々にオバちゃんの視界からフェイドアウトしていった。
ある夏の日の、懐かしい思い出である。
おわり。